48. 夫が一度こちらに来てから更に年を越して、春になった頃 再度の夫からの声を大にしての、そろそろ帰って来いとの連絡が あった。 私が家を飛び出してすでに1年以上が過ぎている。 いつかはこんな日が来るだろうと思っていたが毎日の生活が 素敵過ぎて、ついつい考えないようにしていた。 私が直近で知っている最後の浮気相手の小野寺祐子のことを 知ってからまだ3年経過していない。 夫から財産分与、その他別途の慰謝料を貰って別れる時が 来たなと、重い腰を上げるべく、離婚状を叩きつけてやるか と、勇ましい言葉を胸の内で羅列して自分を鼓舞してみた。 この際だから、小野寺祐子にも慰謝料請求して やろう~ぉっと。 実はあの時、何とか浮気の証拠を掴もうとすぐに興信所を 雇っていた。 もうあの時点でふたりの関係は終わっていたので、証拠を 掴むのは無理かと、ほんとに駄目元で頼んでいたのだ。 しかし、予想に反して大きな収穫があった。 あの後、夫と小野寺祐子との間に接触があり、ばっちり ふたりの映像と会話が撮れている。 あの時は、そこまで準備したものの、まだその時ではないと 放置していたのだけれど。 私はこれからのことを話し合うため、こちらでの仕事を調整して 夫に会いに行くことにした。 ホテルの予約を1泊2日で取り、話し合いは個室のある 別の料亭を指示した。 初めて心の中で固めて暖め続けてきた自分の思いの丈を 本心を吐露するつもりだ。 相手が興奮してどんな行動に出るか予想がつかない。 今まで手を挙げられたことはないけれど……それは私が 夫に対して概ね従順だったからで。 私が思い通りにならないと知った時、どんな態度、行動に 出るか予想がつかない。 互いに言いたいことを言い出して、興奮して修羅場になったら…… 夫が豹変する可能性も捨てきれないので、暴力のことも予め 考えておきたい。 私は過去従順だった自分の仮面を脱ぎ捨て思いっきり 自分の気持ちをぶつけるつもりなので、万が一のDVに 備えて、息子たちに応援を頼むことにした。 私に危害が加えられそうになったら、すぐに助けられるよう 隣の部屋で待機していてもらうことにしたのだ。 どうしてここまで用意周到かというと、温和な
49. 夫はせいぜいが後数ヶ月か1年、最悪それ以上かとにかく、私が今の暮らし方をもう少し延長したいと申し出ると思っているはず。 けれど、Non Non トンデモ……! 私は関西の地元に帰り、夫と対決した。 ◇ ◇ ◇ ◇ 『私、もうこちらへは帰って来ないつもり』 「えっ!! 君、確か旅に出るって出掛けたんだったよね?それ、おかしくない? 息子たちや僕のこと、どうするつもり?家族を……家庭を…… 捨てるってこと?」「そうなるかなぁ。でも息子たちは捨てるつもりない……」 「……。」 しばらく、脳内で私の発した言葉を消化しようと努めていた夫は、しばらくして何かに思い至り、瞠目し口を開けたけれど音声を発することに失敗した。 「つまり、僕だけを捨てるってこと?」「これから先の人生は、新天地でひとりで生きていきたいの。あなたとは、もう暮らしていけない」「誰か好きな男でもできた?」「あなたと一緒にしてほしくないなぁ~。 すぐにそういう思考回路になるんだね。 皆がみんな、自分と同じような行動をするっていう考えは止めた方がいいわよ。 そんな簡単に男女の関係に普通の人間はなかなかならないよ。 しかも私なんて50才過ぎたどこにでも転がってるただのおばちゃんだよ?」 夫の前で初めてズバズバッとしゃべる私の姿に夫が戸惑っているのが分かる。「今まで文句や不満も言わず仲良く暮らしてきたじゃないか。子供たちも成人してこれから今まで以上に夫婦単位で旅行したりデートしたり仲良くできるこれからっていう時に、どうして? 理由が分からないよ」
50. 『都合悪いことは忘れてしまったの?文句は、言った。 浮気相手の3人目あたりまではね。 泣きながら、他の女性と付き合うのは止めて下さいって言ったよ? 忘れたの? それともその後も女が変わる度、私は大泣きして全身で大暴れでもして怒らないといけなかった? 訴えても暖簾に腕押しで私の言い分はあなたに届かなかった。 だから、諦めたの。 平気だったわけではないのよ。 あの時、私には守るべき幼子が2人いた。 だから、子供ともども生き延びるために両目を瞑ってあなたの不貞を見て見ぬ振りすることにした。 離婚を切り出せない不甲斐ない自分に反吐が出たわ。 もう夫婦生活もない50才を過ぎた平凡な只のおばさんに執着しなくっていいわよ。 それに今更なことであなたに怒りを向けるんだよ。 あなたの今持つ私への未練は、今までの従順な私にただ情が残っているだけのものだから。 溜め込んでたモノをぶつけていくような私は、きっとあなたが慣れ親しんできた愛しく思い続けてきた妻じゃないはず。 私を自由にして下さい』 ◇ ◇ ◇ ◇今まで俺が見たことのない誰か知らない女性の眼差しで妻は俺を捨てようとしている。 散々大勢の女たちと浮気しながら俺はどうして妻が他の女たちと同様に自分を欲している、愛情を向けてくれていると今のいままで何の疑いもなく思っていたのだろう。 29才で結婚し、数年後からつい最近までどっぷり家庭とは別に大勢の女たちとアバンチュールを楽しんできていながら自分勝手な思い込みを続けて来れたものだと、突然覚醒した俺は、ストンと妻の言い分が腑に落ちた。 妻が永遠に自分の居る場所に戻ることなく、目の前から居なくなってしまうということに。 そんな現実を突き付けられて初めて、夢から醒めたような気持ちになった。 『私のお願いに聞く耳持とうとしなかった頃から、息子たちが大きくなったら家を出て行こうと考えていたの。その頃からずうっとよ。ちょっぴりコワイ話をしましょうか。 あなたの度重なる浮気に目を瞑るようになった日から私はあなたのことを愛したことなど一度もないのよ。 あなたへの愛はポイって捨てたの。 あなたを夫と思わず生きてきたの。 知らなかった? 毎日がお楽しみに忙しかったあなたが気付くはずないか
1.仁科家の住む街は関西圏内のトアル場所仁科貴司 57才 -- 一級建築士[事務所所長-社員5名] 副業でスナック経営 趣味はバイク 仁科葵 50才 -----専業+時々短期アルバイター通訳の 有資格者 趣味はパッチワーク 仁科賢也 25才 ----会社員 真面目なリーマン 仁科智也 22才 ----会社員 朴訥リーマン 西島薫 52才 ---- 小児科医 息子達もお世話になった。 小野寺裕子 36才 独身----貴司の浮気相手のクソビッチ 岡本沙織 55才 キャンプ場のオーナー (犬、猫達をたくさん世話している。)コウ--8才の雄猫---身体にマヒがある、仔猫育て上手な イクメンくん 1. 私はカスミソウの花が好きだ。 最近になって花言葉を知った。 春から初夏にかけて咲くと言われているカスミソウ。 ピンクの花言葉は「切なる願い=My earnest wish」と いうのだそうだ。 ずっとカスミソウには白色しかないと思い込んで いたのだけれど花言葉を知って、ピンクのカスミソウが 私の心の中を占めるようになっていった。 ○○○○年4月某日のこと…… 「お集まりの皆さん、お忙しい中お越しいただき ありがとうございます。 今月の4月9日が我々夫婦の26回目の結婚記念日だった のですがまんま9日にとはいかず、少し日程がズレて しまいましたけれど、記念日と併せて皆さんに発表して おきたいことがありまして お声をかけさせていただいた次第です。」 ♡貴司くぅ~ん、前置きはその位で早く本題 お願い~っ! ♡ 夫のバイク仲間が野次を入れた。-夫が独身だった頃からの顔が6つほどチラホラ。 所謂遊び友達で悪友というヤツだ。 副業でやっているスナックの従業員と本業の設計事務所の 社員の顔もある。 ご近所で子供を介して仲良くしているママ友ご夫婦の顔も 見つけた。 3組ご夫婦で揃って来てくれたみたい。 夫の社交力というものを改めて再認識し
2. 「今まで仕事も二足のわらじで一生懸命やってきましたが、趣味や遊びも 負けないぐらい時間を費やしヤンチャなこともしてきたわけですが、60才を目前に目が醒めまして……。」 『覚醒したのねぇ~ン』←-- ヤンチャ仲間たちのクスクス笑い「今後は家庭第一家族第一、そして私の最愛の妻第一をモットーに 今までの感謝と共に反省も込めて妻を大切にしていくことをここに誓います」 夫は神妙な面持ちでそれから笑顔を周りの人たちに向けて声高に再度 『最愛の妻だけに心を捧げて大切にしていくことを誓います』と言葉を結んだ。 とまれ……私は事情が飲み込めず、頭の中は真っ白。『えーっ』 けれど辛うじて周囲の人たちに違和感を持たれない程度に 口角を上げ、微笑みを湛えた表情で拍手喝采を受け止めた。 『アホくさっ』 夫が私の方を見たように視界の端で捉えたけれど 気付かぬ振りで私は息子たちに視線を向けた。 長男も次男も辛うじて周囲に溶け込んだ表情を纏って いたけれど、その目には明らかに私と同様の困惑が 浮かんでいたのを私は見逃さなかった。 長年、最も夫を間近で見て来た者だけが持ちうる 苦悩や悲しみ裏切り、様々な感情の混じり合った乾いた瞳……6つの瞳に喜びの色はなかった。『何だ、ソレっ』
3. 夫はアラ還になって、やっと私だけの男《夫》になると 内外に宣言したのだ。 私には夫の腹の内が読めてしまった。 夫の友人たちも類友で、皆遊び人ばかり。 その内の若い頃から浮気三昧をしていた2人が 最近立て続けに奥さんたちから引導を渡され熟年離婚されている。 3人目など奥さんが出産で里帰りした時に…… ほんとにその時だけ……たった一度だけ浮気をしたという人だった。 そのあとはずっと真面目に奥さんだけを見てきたらしい けれど、やはりアラ還で離婚されている。 たった一度を許さない女性もいるのだということを知り 夫がとても焦ったのは、想像に難くない。 夫は友人たちが次々と熟年離婚される中、学習したのだろう。 何てずるくて調子の良い男なんだろう。 危機感からか、この先妻だけを見つめ妻と子供たちを大切にするのだと、 それらに全力で心血注ぐと今更なことを言い出すまで、彼の勝手気ままな 浮気は延々と続いてきたのだ。 この25年間余り、ずっとだ。 60才を前になってやっと、妻だけに愛を捧げるデスとぉ? なんじゃらホイホイっだ。 ほんっとに何て残酷な人なんだろう。 私は何ともやりきれない心境だったが、大勢の前での表明だったことも あり、表面上は幸せそうなふうを装って、夫の身勝手な表明を聞いていた。- オブラートに包んでいるけれど、ぶっちゃけ今まで散々浮気しまくって きたが 心を入れ替えて《今頃手遅れよー》もう今後は浮気をやめます 宣言なのだ。 妻に対して、そして外に向けても、これからは妻だけに尽くすと公言。 ずるい男、今になって。 夫の度重なる浮気に何度も泣いてきた私は、会場にいる夫に向けて心の中 で想いの丈をぶちまけた。 今後、最愛の妻だけに心を捧げて大切にしていきますって? 誰のこと? 私のことだなんて言わないよね? あなたのしてきたことを鑑みれば、チャンチャラおかしいって 聞いていた人たちも心の中で呆れているんじゃないかしら。 最愛……最愛ってどんな字を書くのか知ってる? 一番愛するいちばん愛しい人のことよ。 ……なら、それはやっぱり私のことじゃない。 あなたはあなた自身が一番かわいくて大事。 あなたの最愛の人ってあなた自身。 言う
4. 妻である私にもフェミニストでやさしく家庭もそこそこ大事にしてくれて、 浮気はしても他し女《あだしおんな》に溺れるということは過去一度も ないのは確か。 妻の訴えには耳を貸さず、よその女性と付き合うのは 男の甲斐性とばかりに次々と浮気を繰り返してきた夫。 よその女性との遊びや旅行は止めてほしいと、やんわり お願してきたけれど、家庭もつまり私や子供たちのことも 大切にしているのだから、いちいち外での交友を縛ったり してはいけないと言う。 また「よその女性にモテるっていうことは、それだけ素敵な旦那様って ことなんだから、妻とだけしか付き合えないようなモテず魅力のない 男が夫であるほうが良かったっていうのかい? そんな男といたって君もつまんないでしょ?」 そう言い放ち、私の願いは聞き入れられなかった。 しっかり稼いで家族には何不自由させてない…… 大切にやさしくしている…… その上でよその女性と何しようが文句は言わせない…… 夫の放った言葉から、妻ひとりだけのものにはならない、 これが夫の意思表明だったのだろう。 やさしい? ほんとに? 本当は判ってる。 やさしい人がこんなに私の心を翻弄し苦しめたりするはずが ないってことを。 彼は最も残酷な人間。 私はそれを忘れちゃぁいけない。 彼に笑顔を向けているときも、従順でいるときも、 言動で見せ掛けの優しさを受け取るときも、やさしさなんて 持ってないってことをずっとずっと忘れてはいけない。 いつもブレることなく、自分を保っていればこれ以上 自分の心を痛めることもないのだから。
5.☑ 自分は女性にとってどれだけ魅力的かを知っている者 だけが振舞える横暴を振りかざす男。 何をしても何を云っても私が彼から離れられないのを 知っていて私にその言葉を振り下ろした男。 それが私と結婚した夫だった。 まだ子供達が幼かった頃のこと……。 夫と一緒に参加するevent、運動会、町内会、会社関連での 夫婦揃ってのパーティー etc, 家族連れの時もカップルの時も、いつも皆一様に夫の隣にいる 私に羨望の眼差しを向けてくる。 言葉に出して言われたことも一度やニ度ではなかった。 『素敵なご主人で羨ましい。 ほんと、あなたって幸せ者ね。いいわねっ』 そんな眼差しを浴びる度…… そんな言葉を掛けられる度…… ただ無言で微笑むだけ。 私はいつだって『そうなのいいでしょっ』とは返せなかった。 だって皆が羨むほど、幸せではなかったから。 幸せどころかいつも心の片隅に不安と悲しみ、怒りがあった。 私だけが知っている真実。 私は皆の前ではまやかしの象徴。 不誠実極まりない男を周りから、いい男、できる男、 魅力的な男を夫に持っている最高に幸せな女と思われているってどんな気分なの? 葵……。 満足とまではいかなくとも、快感くらいは感じてる? ちっとも、ちっとも。悲しいだけ。 私の望みはいつも私の心に寄り添い私だけを見つめ続けて くれること。 信頼し合って暮らすこと。 確かに今の時代、離婚するカップルだって大勢いる。 反面、仲の良い夫婦だっていないわけじゃない。なのに……どーして私なんだろうって思った。 浮気な夫に当たってしまったのが、どうして 私だったんだろうって。寂し過ぎる。
50. 『都合悪いことは忘れてしまったの?文句は、言った。 浮気相手の3人目あたりまではね。 泣きながら、他の女性と付き合うのは止めて下さいって言ったよ? 忘れたの? それともその後も女が変わる度、私は大泣きして全身で大暴れでもして怒らないといけなかった? 訴えても暖簾に腕押しで私の言い分はあなたに届かなかった。 だから、諦めたの。 平気だったわけではないのよ。 あの時、私には守るべき幼子が2人いた。 だから、子供ともども生き延びるために両目を瞑ってあなたの不貞を見て見ぬ振りすることにした。 離婚を切り出せない不甲斐ない自分に反吐が出たわ。 もう夫婦生活もない50才を過ぎた平凡な只のおばさんに執着しなくっていいわよ。 それに今更なことであなたに怒りを向けるんだよ。 あなたの今持つ私への未練は、今までの従順な私にただ情が残っているだけのものだから。 溜め込んでたモノをぶつけていくような私は、きっとあなたが慣れ親しんできた愛しく思い続けてきた妻じゃないはず。 私を自由にして下さい』 ◇ ◇ ◇ ◇今まで俺が見たことのない誰か知らない女性の眼差しで妻は俺を捨てようとしている。 散々大勢の女たちと浮気しながら俺はどうして妻が他の女たちと同様に自分を欲している、愛情を向けてくれていると今のいままで何の疑いもなく思っていたのだろう。 29才で結婚し、数年後からつい最近までどっぷり家庭とは別に大勢の女たちとアバンチュールを楽しんできていながら自分勝手な思い込みを続けて来れたものだと、突然覚醒した俺は、ストンと妻の言い分が腑に落ちた。 妻が永遠に自分の居る場所に戻ることなく、目の前から居なくなってしまうということに。 そんな現実を突き付けられて初めて、夢から醒めたような気持ちになった。 『私のお願いに聞く耳持とうとしなかった頃から、息子たちが大きくなったら家を出て行こうと考えていたの。その頃からずうっとよ。ちょっぴりコワイ話をしましょうか。 あなたの度重なる浮気に目を瞑るようになった日から私はあなたのことを愛したことなど一度もないのよ。 あなたへの愛はポイって捨てたの。 あなたを夫と思わず生きてきたの。 知らなかった? 毎日がお楽しみに忙しかったあなたが気付くはずないか
49. 夫はせいぜいが後数ヶ月か1年、最悪それ以上かとにかく、私が今の暮らし方をもう少し延長したいと申し出ると思っているはず。 けれど、Non Non トンデモ……! 私は関西の地元に帰り、夫と対決した。 ◇ ◇ ◇ ◇ 『私、もうこちらへは帰って来ないつもり』 「えっ!! 君、確か旅に出るって出掛けたんだったよね?それ、おかしくない? 息子たちや僕のこと、どうするつもり?家族を……家庭を…… 捨てるってこと?」「そうなるかなぁ。でも息子たちは捨てるつもりない……」 「……。」 しばらく、脳内で私の発した言葉を消化しようと努めていた夫は、しばらくして何かに思い至り、瞠目し口を開けたけれど音声を発することに失敗した。 「つまり、僕だけを捨てるってこと?」「これから先の人生は、新天地でひとりで生きていきたいの。あなたとは、もう暮らしていけない」「誰か好きな男でもできた?」「あなたと一緒にしてほしくないなぁ~。 すぐにそういう思考回路になるんだね。 皆がみんな、自分と同じような行動をするっていう考えは止めた方がいいわよ。 そんな簡単に男女の関係に普通の人間はなかなかならないよ。 しかも私なんて50才過ぎたどこにでも転がってるただのおばちゃんだよ?」 夫の前で初めてズバズバッとしゃべる私の姿に夫が戸惑っているのが分かる。「今まで文句や不満も言わず仲良く暮らしてきたじゃないか。子供たちも成人してこれから今まで以上に夫婦単位で旅行したりデートしたり仲良くできるこれからっていう時に、どうして? 理由が分からないよ」
48. 夫が一度こちらに来てから更に年を越して、春になった頃 再度の夫からの声を大にしての、そろそろ帰って来いとの連絡が あった。 私が家を飛び出してすでに1年以上が過ぎている。 いつかはこんな日が来るだろうと思っていたが毎日の生活が 素敵過ぎて、ついつい考えないようにしていた。 私が直近で知っている最後の浮気相手の小野寺祐子のことを 知ってからまだ3年経過していない。 夫から財産分与、その他別途の慰謝料を貰って別れる時が 来たなと、重い腰を上げるべく、離婚状を叩きつけてやるか と、勇ましい言葉を胸の内で羅列して自分を鼓舞してみた。 この際だから、小野寺祐子にも慰謝料請求して やろう~ぉっと。 実はあの時、何とか浮気の証拠を掴もうとすぐに興信所を 雇っていた。 もうあの時点でふたりの関係は終わっていたので、証拠を 掴むのは無理かと、ほんとに駄目元で頼んでいたのだ。 しかし、予想に反して大きな収穫があった。 あの後、夫と小野寺祐子との間に接触があり、ばっちり ふたりの映像と会話が撮れている。 あの時は、そこまで準備したものの、まだその時ではないと 放置していたのだけれど。 私はこれからのことを話し合うため、こちらでの仕事を調整して 夫に会いに行くことにした。 ホテルの予約を1泊2日で取り、話し合いは個室のある 別の料亭を指示した。 初めて心の中で固めて暖め続けてきた自分の思いの丈を 本心を吐露するつもりだ。 相手が興奮してどんな行動に出るか予想がつかない。 今まで手を挙げられたことはないけれど……それは私が 夫に対して概ね従順だったからで。 私が思い通りにならないと知った時、どんな態度、行動に 出るか予想がつかない。 互いに言いたいことを言い出して、興奮して修羅場になったら…… 夫が豹変する可能性も捨てきれないので、暴力のことも予め 考えておきたい。 私は過去従順だった自分の仮面を脱ぎ捨て思いっきり 自分の気持ちをぶつけるつもりなので、万が一のDVに 備えて、息子たちに応援を頼むことにした。 私に危害が加えられそうになったら、すぐに助けられるよう 隣の部屋で待機していてもらうことにしたのだ。 どうしてここまで用意周到かというと、温和な
47. コウと暮らすようになって、私は幸せで、幸せ過ぎて……。 幸せだなぁ~って、感じるといつも泣いた。 悲しい時に泣くのとは少し違っている涙。 泣くという行為は同じなのにね。 流す涙の違いを知った。 コウは麻痺の不自由な身体で毎日一生懸命お散歩したり、 私が帰るといつも必ず出迎えてくれる。 そして、寂しい時にはいつも側にいてくれるコウ。 今では私の唯一無二の存在。 私はコウに毎日恋をしている。 猫に恋するっていう言葉を使うのは変かもしれないけど 他に言葉が見付からない。 私は確かにコウにFall In Love. 息子たちも愛おしい存在だけれど、比べようもないほど私は コウに首っ丈なのだ。 幸福の幸という文字を取ってコウと名付けた。 コウには麻痺や他にも病気がある。 調子が悪くなった時、病院行けるよう、いっぱい働くからね。 聞いてたコウがひと声、ニャァ~と鳴いた。 仔猫のミーミは、1匹だけ畑に置き去りにされていたのを拾った。 母猫が育児放棄したのかもしれない。 コウは雄なんだけど、子育てがとっても上手なイクメン猫だった。 仔猫を育てたことがないのでものすごく助かった。 コウ、頼りにしてるよっ。 かっこイイ、イクメンさん。 ミーミはすっかりコウのことをおかあさんだと思ってる。 出ないおっぱいフミフミして、吸ってるぅ。 この2匹の光景は私の癒し、しあわせぇ~。
46. 結局母親と姉からヤンヤ・ヤンヤとせっつかれ嫌な思いを したお見合いだったが、なんのことはない。 私は夫にアプローチされ、社内恋愛であっという間に 22才で結婚した。そして悪夢の日々は終わった。 結婚して夫という後ろ盾が出来ると母も姉も 手の平を返してきた。 夫がいる私はちっほけな存在から卒業したようだった。 子供ができると更に私はやさしく大切にされるようになった。 夫という後ろ盾+子供という素晴らしく愛らしい宝を 私が手にしたから。 姉夫婦に子供はできなかった。 夫と結婚し可愛い子をふたりも授かり実家からも大切にされて あの頃が私にとって最高に良い時代だったように思う。 幸せな時間を過ごすうちに、私は悲しかった過去を忘れて いったのかもしれない。 けれど、次男が産まれたあと、今度は夫の理不尽な言動に どんどん傷つけられていった。 これではいけないと思い、自分をこれ以上傷付けないための 方法を考え、強い意志でそれを実行してきた。 子供たちと自分を守るために! 長年に亘る結婚生活でほんとに人間不信、夫不信になって しまいある時、気付いてしまった。 夫が最大の人間不信の元凶ではあるが、その原因が夫だけじゃ なかったことに気付いた。 一番身近な肉親からも私は幼少の頃から大切になんてちっとも されてなかったってことに。 どーして忘れてなんていられたんだろう? 私は夫という信頼のおける、そして私に愛情を注いでくれる 人との暮らし(結婚後数年間)があまりに幸せで、幸せとは いえなかった実家での暮らしを忘れていられたのだろう。 そのことに愕然とし、寒気を覚えた。 そしたら突然自分の足元が崩れ落ちていくような錯覚に陥った。 結婚でやっと幸せに……と思ったのも束の間、自分が持つ 家庭もやはり安住の地ではなかったのだ。 けれど、救いはあった。 夫から経済的には補償されていたし、日々の生活において 圧力がかかったことは一切なかったこと。 重いモノは必ず率先して持ってくれたし、日曜大工でさまざまな便利に 使えるモノも時には作ってくれたり。 やさしい人ではあった。
45. まず母について、 私の子供時代の記憶の中で母はいつも怖い存在として 認識されている。 理不尽なことをされることがよくあった。 怒られているわたし。 泣いているわたし。 悲しい想いをしているわたし。 ちっぽけな私の意見が尊重されることなど皆無だった。 母は、忙し過ぎていつも疲れていて、小さな子供の気持ちに 添うということなどとんと考えもつかなかったみたいだし そんな思い遣りを持つほど、余裕もなかったのだろう。 けれど、この私の気持ちを尊重しない態度は、私が 成人してからも続いた。 その横暴振りは適齢期に入ると更にヒートアップしていった。 年の離れた長姉(ちょうし) 父親の自営の仕事がなかなか軌道に乗らず、長年 貧困時代が続き、勉強がよくできたのに大学進学を諦め 就職を選んだ姉。 孝行娘だった姉は、両親が頼りにできる娘であり、相談相手 にもなりうる大切な娘だった。 そんな姉が母から怒られたりしているのを見たことがない。 姉は幼少の頃より長い間、子供時代を遠い田舎にひとりで 住まわされていた。(近所に親戚多数----見守り有) 田舎にあった持ち家にひとりで住んでいたのは小学生に なってから。 それまでは(2~3才頃から小学校に上がるまでの間)親戚の 人の家で世話になっていたようだ。 ちょっと普通では考えられない境遇で、親は親なりに いろいろと事情があったかと思うけれど、どうにかならなかった のか、と思ってしまう。 年の離れていた私は両親とずっと一緒で離れて暮らしたことはない。 反して長姉は結局中学卒業するまで田舎で独り暮らし 私たちの暮らす街にやって来たのは高校入学と同時だった。 姉が家族と一緒に暮らしたのは結局高校時代の3年間だけである。 そんな姉は就職と共に家を出た。 ということで、私が長姉と暮らしたのは3年間のみ。 親だってほぼ同じようなもの。 なので親としては、姉に対する遠慮もしくは、後ろめたさ みたいなモノがあったんじゃないかと思う。 姉はとっても親孝行な娘だ。 田舎にひとり取り残されていた愚痴も聞いたことがない。 だが、私には昔から意地悪で厳しい。 ちっぽけな取るに足らない存在として扱われ続けている。
44. 妻の居る町へ行って来た。 妻が、旅に出ます、のひと言を残して家を出て行ってから 2か月。 どう考えても旅にしては長過ぎる。 だが、当初はいうほど心配していなかった。 初めて出た長旅に堪能したら、帰って来るだろうくらいにしか 考えていなかった。 だが姉から自分の今までの行いを鑑みたら、葵は帰って 来ないつもりで出て行ったのではないかと、叱責され ここで初めてもうこのまま家族の暮らすこの家に戻って 来ないんじゃないか、途中で連絡もなくなり姿を消して しまうんじゃないか、妻を見るまではそんな不安にばかりに 襲われた。 怖怖(こわごわ)、いつ帰って来るのかと何度かメールを 打った。 しばらく、滞在してみたい場所が決まったからと、やっと 居場所の連絡があり、矢も盾もたまらず葵のもとへ会いに行った。 彼女からは、ずっとこのまま帰らない、の言葉はなかった。 もうしばらくここの暮らしがしたいと言われて、少し 不安が払拭された気分だ。 自分の考え過ぎだったかと。 仕事のこともあるので、今すぐというわけにもいかないが 自分が先で妻の暮らす町に行き一緒に暮らすという選択も 考えてみることにした。 そう思えるほど、自然に囲まれた静かで美しい町だった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ずーっと、夫に裏切られ続けてきた私は、人を信じられなくて どこか壊れてしまったのだろうか? どうしてこんなにもコウに気持ちを持っていかれて しまったのだろう。 その理由を考察してみた。 ずばり、人間不信が根底にあるように思う。 どーして今まで気付かずにいたのだろう。 年を重ねる毎にどんどん私は周りの人間に不信感を募らせて いったというのに。
43. この日は西島さんより先に畑から引き揚げ、じゃがいもと 人参をふんだんに使った、すでに作り置きをしていた おいしいクリームシチューを19時頃に西島さんの家に 届けた。 ウインナーとサラダも付けて。 畑を貸してもらってるお礼に、時々こんなふうに差し入れしている。 今回はたくさん作れたのでキャンプ場の経営者の沙織さんの ところにも届けてきた。 「うぎゃぁ~、一品増えてうれしやぁ~」と沙織さんが喜んでくれた。 私がこの地に来たのは、年が明けて人々の生活が正月気分から 抜けた頃、今から2か月前のこと。 息子たちがまだ小さかった頃から、いつか、きっといつか 自分の本当に幸せを探すために、住んでいる街から……夫の家から…… 出て行こうと考えてきた。 旅に出ると言って家を出たのには理由があった。 50才になりアラ還目前の女がひとりで生きていくというのは 長年計画してきたこととはいえやっぱり限りなく不安なものだ。 万が一、新天地で上手くいかなかった場合は、ひとまず次の chanceを待つこととし、速やかに撤退して家に戻ろうと 画策していからだ。 ズルいかもしれないが、行き当たりばったりだけでは 幸せになどなれない。時には打算も必要なのだ。 いろんな種類の木々が連なり、多種多様な季節毎の草花が 咲き乱れている桃源郷のような山の麓の暮らしは、どうして もっと早くここを知らなかったのだろうと思わせるほど 魅力的なものだ。 毎日不自由な身体で、それでも歩き周囲の草花を堪能するコウ 家に居る時いつも仔猫のミーミのお守りをしながら、私の傍らに 居てくれるコウ。大好きだよ! 毎日、毎夜コウの何ともいえない深みのある瞳と顔を見る度 私は涙する。生きてることに……生かされていることに……より一層感謝する。 コウは私にとって偉大な存在。私は本当にコウに恋してしまった。 バカバカしいと思われようと、恋しちゃったのだ。自分でも自分がおかしくなって、いつかこの今の恋する気持ちは 失われて普通にペットとして好きなだけの気持ちに落ち着くのかも しれないと思いつつ、とにかく今は恋しく想う気持ちを止められない。 そして恋する対象に出会えた私は今、とても幸せだ。
42. 西島さんから言われて、ふと考えてみた。 夫が寂しくてここに来る? そして、私とここで暮らす? まず第1に寂しがったりするまい。 巷に相手をしてくれる女がわんさかいるしね~! 『……って、西島さんは知らないからね~』 あの派手なヤリチン男がこんな過疎ってる何ぁ~んにも 娯楽のない、ジイちゃんバアちゃんが多く棲息している 所に来るとは200%ないないっ。 そんなやこんな、胸の中で考えていたら可笑しくなった。 私の頭の中を知ったら、普通の結婚生活を送り普通の良識に 基づいて暮らしてきた西島さんは、仰天することだろう。 私の夫は普通じゃないので、その妻の私も普通の反応ではないの じゃぁ~。 そんなふうにいろいろ西島さんとのやり取りで疲れてきたので 話題を変えてみた。 『私、知り合いに医師がいてすごくLuckyって思っているんです。 何かあっても、すぐに相談できる人が身近にいるってすごいこと だなって思って。安心感が半端ないわぁ~ン』 ちょっと、勢い余ってタメ口になった。 「コホンっ、葵さん、頼りにされるのはやぶさかではないですが 僕は小児科医です……。」 『子供も大人も同じ構造をした人間ですから、大丈夫ですってば 信頼してますからぁ。頼りにしてまぁ~す』 「参ったなぁ~。まぁ、普通の人より少しはお役にたてるかも しれませんね。だけど、健康に良い献立での食事、ストレッチに 適度な運動を心掛けて、病気しないのが何よりです。 認知症予防には食物繊維+たんばく質を毎日しっかり取することも 大切なんですよ。 あ~、それと血管の老化を防ぐ事もね。 この血管の老化を防ぐには食事+運動+睡眠が大切で、 血液サラサラに するのには玉葱がいいです。 後、これから老いを迎える僕たちにすごく必要なことになってきますが。 先で寝たきりにならないためには全身を支える大黒柱の大腰筋 《だいようきん》を鍛えることが大切で、死ぬまで元気に歩けるか どうかは大腰筋を衰えさせて細くさせないことが大切です。たんぱく質が不足すると筋力が低下してくるので運動と共に 摂取が欠かせませんね。 葵さんは心配しなくても、食事面は大丈夫そうだ